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   「Gather Raphsody」 (1)
Written by Raputa.

 
 そこは奇怪のフロンティア。
 舞踏会には死霊の踊り。
 夜のテラスに血のワイン。
 奏でるピアノも死の薫り。
 そして――地下には叫びと土くれを。
 

 とある奥地の山城で、夜ごと繰り広げられる惨劇と虚無の演劇(ステージ)
 城主(オーナー)本人は、その演技(アクティング)にあるいは「高貴」を見出すのかもしれないが、
 人間の大半と――そして一部の吸血鬼(ヴァンパイア)達はそれを酷く嫌悪する。

 それでも両者――趣向の異なる吸血鬼達――が交わらなければ、
 その幕が永遠に下されることなく演劇は続けられていただろう。
 だが、城主があえて交わる事を望んだがために、否応無しに幕は下されることになった。
 その終劇(フィナーレ)を前にして、役者(アクター)達は静かに――時に騒がしく――刻(とき)の過ぎるのを待つ。
 ただし彼らには、これから始まる事が本当の意味での「終劇」であることを知らされぬままで――
 
 

「そりゃあ堂々と人をいたぶることが出来るからよ、へっへっへ・・・」

 厳つい体格で禿頭(とくとう)の、されど目に狂気を宿したその拷問吏は、鞭を手に、下品に舌嘗めずりをさせながら、それと同等の嘗めるような視線で、彼の話し相手を頭の先からつま先までじっと見まわしていた。

「そうですか。・・・それは、楽しいものなのですか?」

「そりゃ〜あ、楽しいものさ」

 美しく、されど何処か凍るような響きを持った彼女の問いに対し、間髪入れずに拷問吏は下卑た笑いを浮かべつつそう答えた。

「特に小娘を・・・そうさな、例えばお前みたいな小綺麗に着飾って、妙〜にかしこまった娘の化けの皮を剥がしてやる時なんてゾクゾク来ちまうね〜」

「・・・そうなのですか」

 拷問吏が今にも彼女にその魔手を伸ばそうという仕草を見せているにもかかわらず、相変わらず彼女は動じないままだった。
 拷問部屋という特性上、ここには血の匂いを含むおぞましいまでの異臭が充満しているのだが――明らかにその場にいるのにおよそ相応しくない格好をした彼女は、それにすらまるで反応を見せなかった。

「ただなぁ・・・最近そういう機会もめっきり減っちまってな。最後は何時だったか・・・ああ、そうそう。あの、上でピアノ弾いてる奴の妹だったっけか? そいつをちょっと『遊んで』みたのが最後だったかねぇ」

 ピアニストのことに触れられた時、ここに来て初めて彼女の顔が歪んだ。無論、傍目には到底気づかない程度の僅かなものではあったのだが。

「まったく、最近の城主様は、人形師のジジイに何か作らせたと思ったら、そいつと共に何日も部屋に閉じこもっていたり、かと思ったらそれにも飽き足らなくなったのか、あのチンケなクズ男を外に出して何かしようとしていたり・・・何だか良く分かんねぇけど、とりあえずこっちゃ、する事がなくて暇で暇でしょうがないぜ」

「・・・そうですか。ご不満をお持ちのようですね。では、その事を御主人様にお伝えしますか?」

 気のせいか、どこか怒気を込めたような――なのに、この世の全てを結晶に変えてしまうかのような響き。
 そのたった一言が――拷問吏と彼女との「立場」を一変させてしまった。

「そっ、そいつだけは勘弁してくれ・・・もし城主様の耳にこんなことが入っちまったら、それでもし城主様の機嫌を損ねたりしたら・・・俺は、俺はそれこそあっという間にっ・・・!」

 今まで文字通り彼女を見下していた拷問吏が、彼女の一言で、途端に命乞いをするかのように跪いてすがってくるようになった――彼女が一番「城主様」に近い存在であった事を、たった一言で気が付く程度のことをうっかり忘れてしまうほどに、彼はすっかり他人を見下す心が染み付いてしまっていたのだ。

 これが普段、他人の身体と命、そして心をも弄ぶ人間の姿だろうか?
 他人を――特に弱者を――弄ぶのを誰よりも何よりも狂喜とするにもかかわらず、自分が弄ばれる事は誰よりも何よりも忌避する――そんな彼を、この世で最も「弱き者」と言わずして、他に何と喩えようか。
 その姿は余りにも、情けないというのを通り越して――ただ、惨めなだけであった。

 そして、それが十二分に分かっているであろう彼女は、今度は自分が拷問吏を見下す立場になったにもかかわらず、なお表情を変えなかった。

「・・・それでは失礼いたします」

 そして彼がすがり付こうと彼女の衣服に触れる寸前、「必要な事」を聞き終えた彼女は、くるりと身を翻してそのまま出口へと向かった。
 ほんの僅かに舞い上がった彼女のスカートの襞が拷問吏の手に触れる――それが彼女の「払い手」の代わりであることに、さしもの拷問吏も気づかざるを得なかったのか、結局彼は、跪いて右手を不恰好に上げた姿勢のままで、彼女が階段を静かに上がっていく様を見送るしかなかったのであった。
 

(つづく) 
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